慎重すぎても駄目な時がある




多くの過失が重なって起きる事故

 事例5「高速道路の本線合流で加速したあとにブレーキかけて本線合流できない奴」についてです。事例1〜4については「もどる」で前回までの連載で内容を確認してください。この連載をはじめて読まれる方は全編INDEXにどうぞ。

 一般道では一時停止後に本線道路に合流するのが普通ですが、高速道路や自動車専用道路では加速しながら本線合流しなければいけない所に頻繁に遭遇します。本線道路の交通の流れが速いため、一時停止後に合流すると速度差があり過ぎて危険であるからです。
 古い記憶を呼び起こしますと、静岡県内の東名高速自動車道の本線合流地点で本線合流できないまま急停車してしまった乗用車(ライトバン)に大型トラックが追突して乗用車が炎上し、乗用車を運転していた中年男性ドライバーが死亡した事故がありました。加速力が弱い満載トラックは、本線合流前に充分な加速を行なわなければならないため前走車のライトバンに続いてフル加速をしたところで、前走車が急制動。急制動も苦手な大型車はそのまま追突してしまいました。
 本線上に合流が困難な状況にせよ、後方の大型トラックの存在を確認していれば急制動してはいけない状況を判断でき、後方確認を怠っていたにせよ、路肩を使ってでも本線合流するか、急停車する場所を考えていれば防げた事故でした。
 また大型トラックの立場から考察すると、本線上の車両を確認するために右側のミラーに気を取られ、前走車への注意を怠っていた訳です。さらに本線上を走行している車両の立場から考察すれば、ICの合流地点では事前に前車との車間距離を大きめにとるか、事前に右側車線にレーンチェンジしておくことで不馴れなドライバーでも合流が容易になるような配慮が欲しいところでした。混んでいる場合には車間距離が小さくなる反面で速度が落ちますし、空いている場合には車間距離は大きくなる代わりに速度が高くなるので、いずれの場合でもドライバーには同じ配慮が求められる事になります。



信じるより仕方のない事

 つい1回前の連載で「孟子が唱えた性善説を支持する私としては、本当はドライバー全員を信用したいのですが、交通事故を避けて通る目的で交通社会では誰も信じない事にしています」と書いておきながら、今度は「信じるより仕方のない事」というのは矛盾しています。しかし仕方ないのです。
 運が悪い事の例えに「事故に遭ったと思うしかない」と言われる場合があります。被害を被った側の人が、その被害を自身の力では事前に回避することが出来なかった場合を言う例えです。つまり事故には回避できない事があります。
 運の善し悪しだけでなく、他のドライバーの過失や故意によって引き起こされる事故も少なからずあって、「交通事故は避けて通れる」と提唱している立場としては、とても残念なのですが、こういったケースに直面した場合には自身の被害を最小限に食い止める手段を選ぶしかないのです。今回の話は、そんな適例です。
 大型車に追突されて死んでしまうくらいなら、別の方法はあったということ。当時の新聞記事の記憶もあいまいですし、あくまでも予想でしかないのですが、死亡してしまった中年男性は本線上を走る速度差のある車両の前に強引に割り込むか、車間距離の少ない2台の間に割って入る必要性に迫られたのでしょう。本線上の車両にブレーキを踏ませるくらいなら自分がブレーキを踏んでしまおうとか、追突されたり、側面接触することへの恐怖で思わずブレーキを踏んでしまったのかもしれません。
 いずれにせよ、瞬間的判断力を含めて運転が未熟であった事だけは間違いありません。右ハンドルの乗用車で右側の本線車線に合流する場所でしたから併走する車両の直接目視は容易だったハズですし、左ハンドルであっても併走車の確認は瞬時にできます。直接目視の結果、本線上を走る車両が真横でなければブレーキを踏まず合流車線の最先端まで加速を続けながら合流すべきです。最先端まで行く理由は本線上の車両との速度差を小さくする目的と状況判断する時間を稼ぐことが目的です。
 極端ですが、本線車両の先端から1センチ前であっても強引に入るべきなのです。言い換えれば、合流で側面から当たっていかない限りは、本線走行車はブレーキを踏んで追突を避けざるを得ません。また仮に本線車両のドライバーが居眠りをしていたとしても、停止したところに追突されるのと違い、双方が走行している場合には余程大きな速度差でない限りは接触しても死亡事故を引き起こすような状況にはなりにくいものです。
 危険な状況になるような速度差があれば真横に来た瞬間に通り過ぎてしまうでしょうから、一瞬アクセルを抜いて合流すれば通り過ぎた車両の直後に合流できます。つまり高速道路の合流は、本線走行車両が真横に並ばない限り、追突される覚悟で合流するのが正しい判断です。そう、信じるより仕方のない事なのです。疑問を持ちましたね? ブレーキを踏んだ方が被害を最小限に食い止められる場合があると。その通りです。そういう判断力のない方は、無理にでも本線合流すべきだと思いませんか?


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